漢方薬による更年期障害の治療効果は現代医療でも広く認められており、いまや漢方は更年期障害の治療法の一つとして一般的なものになっています。では、漢方のどのような点が評価されているのでしょうか。そこで今回は、更年期障害について簡単におさらいしながら、漢方が更年期障害の治療に向いている2つの理由をお話ししていきます。
目次
そもそも更年期障害とは?
更年期ごろになると、女性ホルモン(エストロゲン)の減少や自律神経の乱れによって、心身にいろいろな症状が現れます。なかでも、日常生活に支障をきたすほど重い場合を「更年期障害」といいます。
更年期症状は検査をしても体に異常が見当たらず、原因を特定しにくい「不定愁訴」といわれる変調が心身に起こります。
具体的には、ほてりやのぼせ、発汗、動悸、冷え、頭痛、めまい、肩こりといった体の不調もあれば、イライラや不安、不眠といった心の不調もよくみられます。また、症状の現れ方や程度も個人差が大きく、複数の症状が重なったり、日によって異なる症状が出ることもあります。(40歳を過ぎたらそろそろ気になる…… 更年期障害の原因と症状)
更年期障害の治療に漢方が向いている理由2つ
漢方薬は現代医療でもその効果が認められ、更年期障害の治療に広く用いられています。その主な理由として次の2つが挙げられます。
不定愁訴の治療に適している
西洋医学の場合、病気の原因にピンポイントで働きかけて治療していくのが特徴です。その分、即効性に優れていますが、原因がはっきりしない不定愁訴のようなケースは対応しにくいことも。
一方、漢方医学において、病気は心身の働きのバランスの乱れによって起こると考えます。漢方薬はそのバランスを整え、自然治癒力を高めることで病気を治療していくので、原因を特定しにくい不定愁訴に対しても改善が期待できるのです。また、さまざまな症状が心身に現れていて、西洋医学では複数の薬が必要なケースでも、漢方だと一つの薬で改善することも少なくありません。
ホルモン補充療法(HRT)が受けられない人も使える
更年期障害の根本的な治療法として、女性ホルモンを補うホルモン補充療法(HRT)があります。(更年期障害の治療にはどんな方法があるの?)HRTは更年期障害の改善に高い効果が認められていますが、治療を受ける際にはいくつか注意すべき点があります。不正出血などの副作用が起こる可能性があるほか、子宮体がんや乳がん、脳卒中などにかかっている人や既往歴がある人は、病気を悪化させるリスクが高いため、治療を受けられなかったり、注意が必要になります。
漢方薬はHRTのように女性ホルモンに直接作用せず、副作用のリスクも低いため、HRTが受けられない人やHRTを希望しない人でも、服用できる点が漢方薬の大きなメリットです。
更年期障害によく使われる3つの漢方薬
漢方薬はその患者の症状とともに体質なども考慮し、同じ症状でもその人に合った薬を処方するのが特徴です。ここでは更年期障害の治療によく用いられる3つの漢方薬をご紹介します。
加味逍遥散(かみしょうようさん)
心身にさまざまな不調が起こる更年期症状に対して総合的に効果が高いとされ、よく処方される漢方薬です。体力があまりない人で、肩こり、めまい、頭痛、のぼせや発汗などのほか、イライラや不安感など精神症状のある方に用いられます。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
体力虚弱で疲れやすく、冷えや貧血、めまいなどがある方に適しています。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
体力は中くらいで、顔はのぼせやすいのに足が冷えたり、頭痛、肩こり、めまいなどがある方に向いています。
服用の際に気をつけたいポイント
「副作用が少ない」と思われている漢方薬ですが、体質に合わなければ発疹などの副作用が生じる場合もあります。体に異常を感じたら服用を中止してください。症状の改善がみられない場合も早めに医師に相談し、別の漢方薬に変更するか、ホルモン補充療法(HRT)への変更も検討してみましょう。
<参考>
池下育子・野末悦子監修『女性の医学百科』主婦の友社、2004年
石河亜紀子ほか監修『からだのことがよくわかる女性の医学』池田書店、2005年
嶋田豊監修『NHKきょうの健康 漢方薬事典 改訂版』主婦と生活社、2016年
中村理英子『最新版 更年期からのクリニック』主婦と生活社、2004年
クラシエ 漢方セラピー
(http://www.kracie.co.jp/ph/k-therapy/)
ツムラ 漢方について|悩み別漢方:更年期障害
(http://www.tsumura.co.jp/kampo/nayami/kounenkishougai01.html)
公益社団法人日本産科婦人科学会 病気を知ろう:婦人科の病気「更年期障害」
(http://www.jsog.or.jp/public/knowledge/kounenki.html)