女性ホルモンの一つであるエストロゲンは、全身のあらゆる器官に作用し、女性の健康を保持する働きをしています。ところが、更年期を迎えるとエストロゲンの分泌量が減少するため、さまざまな病気にかかりやすくなります。そこで今回は、更年期以降気をつけたい病気を解説します。
目次
更年期から発症リスク増!注意したい病気
糖尿病
糖尿病は、血液中の糖(血糖)の代謝に関わるインスリンというホルモンが不足し、血糖が異常に増えてしまう病気。エストロゲンにはインスリンの作用を高める働きがありますが、更年期以降はエストロゲンの分泌量が減少するため、糖尿病の発症リスクが上昇します。糖尿病の初期は自覚症状がありませんが、進行すると脳卒中や心筋梗塞などの合併症を引き起こす恐れがあり、怖い病気です。
のどの渇き、疲労感、尿量の増加、やたらと甘いものが食べたくなるといった症状が出てきたら、病状がかなり進行しています。また、手足のしびれ、肩や首のこりなど更年期の症状とまぎらわしいものもあるので注意が必要です。定期的に健康診断を受けて、血糖値を測定するようにしましょう。
高血圧症
エストロゲンには血管を拡張させる作用があり、血圧を正常に保つ役割をしています。ところが、更年期以降エストロゲンが低下すると、血圧が上昇しやすくなるため、高血圧症のリスクが一気に上昇するのです。また、高血圧症になると、頭痛や肩こり、めまいなどが現れますが、更年期の症状と似ているからといって軽視せず、早めに受診してください。
脂質異常症(高脂血症)
血中の中性脂肪やコレステロールが増え過ぎるのが脂質異常症(高脂血症)です。エストロゲンにはHDL(善玉)コレステロールを増やして、LDL(悪玉)コレステロールを低下させたり、総コレステロールを減らす働きがあります。ところが、更年期以降にエストロゲンが減少し、血中コレステロールが増加すると、血管壁が硬くなる動脈硬化が進行し、血液の流れが悪くなります。その影響で動悸やめまい、のぼせ、頭痛などがみられますが、これらは更年期の症状に似ており、見過ごしがちなので要注意。体の変調に気づいたら早期のうちに受診しましょう。
骨粗鬆症
骨密度が低下して骨がもろくなる骨粗鬆症は、閉経後の50代から急増し、更年期以降の女性は特に気をつけたい病気です。エストロゲンにはカルシウムの吸収を助けて、骨を強くする働きがありますが、更年期に入りエストロゲンが低下すると、骨がもろくなって折れやすくなってしまいます。骨粗鬆症を予防するためには、カルシウムを積極的に摂り、骨を強くするために適度な運動を続けてください。また、定期的に骨密度測定を受けることも大切です。
子宮がん
子宮がんには子宮頸がんと子宮体がんがあり、子宮頸がんは30~40代前半の女性によくみられるのに対し、子宮体がんは閉経以降の50~60代に多くみられます。子宮体がんのサインは不正出血です。閉経したのに不正出血がある場合はすぐに受診してください。また、更年期を迎えると月経不順になり、月経と不正出血の見分けがつきにくいので、定期的に子宮体がんの検査をするようにしましょう。
子宮筋腫
子宮筋腫は30~40代に多い良性の腫瘍ですが、更年期に入り、ホルモンバランスが崩れると、筋腫が一時的に大きくなることも。閉経に向けて筋腫は小さくなっていきますが、筋腫が大きく、貧血や腰痛など日常生活に支障をきたすほどの症状がある場合は治療が必要です。
子宮内膜症
子宮内膜症は、子宮内膜と似た組織が子宮以外の場所で増殖する病気。月経のたびに激しい下腹部痛などが起こります。閉経を迎えれば、月経に伴う子宮内膜の増殖がなくなるので症状は軽くなりますが、更年期に入ってホルモンバランスが乱れると、急に悪化することがあります。
乳がん
乳がんの患者数がもっとも多いのは40代。次いで50~60代にも多く、更年期から閉経以降の女性が特に気をつけたい病気の一つです。乳がんは早期発見によって、回復率が高いがんでもあります。毎月1回は乳房を自己チェックし、定期的に乳がん検診を受け、予防に努めましょう。
関節リウマチ
関節が腫れてこわばり、痛くなる関節リウマチは女性に多く、30~40代での発症が目立ちます。更年期に移行するときの女性ホルモンの変動が免疫機能に影響して、発症につながっていると考えられています。
萎縮性膣炎・外陰炎
萎縮性膣炎はエストロゲンの分泌低下によって、膣や外陰が委縮して薄くなり、雑菌が繁殖することで起こる炎症です。また、エストロゲンが減少すると、膣内の自浄作用も低下するため、細菌性膣炎も起こりやすくなります。
生活改善と定期検診で更年期以降も健やかに
更年期とその先の長い人生をいきいきと過ごすためにも、日頃の健康管理が大切です。更年期から閉経以降は、特に糖尿病や高血圧症、脂質異常症などの生活習慣病にかかりやすくなってきます。過食や肥満、運動不足、ストレスの蓄積などに注意し、健康を意識した生活を送り、病気を予防しましょう。それと同時に、定期的に健康診断やがん検診、骨密度検査などを受けて、病気の早期発見に努めましょう。
<参考>
池下育子・野末悦子監修『女性の医学百科』主婦の友社、2004年
石河亜紀子ほか監修『からだのことがよくわかる女性の医学』池田書店、2005年
武谷雄二『エストロゲンと女性のヘルスケア』メジカルビュー社、2015年
中村理英子『最新版 更年期からのクリニック』主婦と生活社、2004年
厚生労働省 ヘルスケアラボ(http://w-health.jp/)